「聞いて聴いて、早川一光先生のラジオな話!又、来週」第30話
第30話
何が起きるか分らないのが、生放送です。
「早川一光のばんざい人間」では、隣にいたミキサ-が急病で倒れるなんて考えた事もありませんでした。
今までも桂枝雀さん・黒田征太郎さんとの修羅場の話しをご紹介しましたが、今回は南沙織さんの嘘のような本当の話。
突然、降ってわいた修羅場です。あなたなら、どうします。何かの参考になれば幸いです。
出演交渉は、当時電話だけのやり取りでした。特に書面で契約書を交わす事は、ほとんどありませんでした。当日の朝、本当に来るのかな?と不安になる事もありました。(やせても枯れても民放連に加盟している放送局、その辺のイベント屋の闇営業とは違います。これセ-ルスト-ク)それは草津の市民会館で勤労感謝の日に「南沙織ショ-」の公開録音をすると云う時でした。今から思えば虫の知らせと云うのでしょうか、普段はしないのですが会館の電話番号の入った地図を、その時はあらかじめ事務所に送ったのです。
今なら携帯電話で検索できますが、当時はそんな便利なものはありません。午後2時ごろ、会場に入り楽屋や看板の点検。技術はマイク等のセッテイングの準備に入りました。開場は午後5時半、開演は午後6時です。市民会館の方が、私に「電話です。」と呼びに来ました。
事務所に行って受話器を取ると若い声で
「南沙織の楽器を運んでいる者です。今、沼津で水溜まりに突っ込んで立ち往生しています。どうしたらいいか困っています。」との事。
「今、どこから電話しているの?」ここで電話が切れたら万事窮す。
「近所の家の電話を借りています。」「折り返し、こちらから電話するから電話番号を教えて!」折り返し電話(これが正解)
「近所に運送屋さんないか聞いて?お金の心配はいらんから。」(その間会社に電話して、局長にはお金を用意して来て欲しいと要請。)
しかし運送屋は見つから無い。
「事務所にカラオケあるやろ?」休日で事務所に人がいません。
「マネ-ジャ-は何処?」
何処の放送局か知りませんが、南沙織さんと二人で、大阪に行ってます。
「バンドのメンバ-は?」
新幹線で草津に向かっています。
今みたいに携帯電話があれば、マネ-ジャ-にすぐ連絡が取れるのですが「さあ、どうする?」私が動揺すると皆に連鎖します。考えている暇は有りません。
やれる事から始めよう!時刻は午後2時過ぎ。市民会館の事務所の電話の前に陣取って、今ある情報に基づいて当たるしかありません。
公開録音か番組ゲストか?朝日か毎日それともラジオ大阪?もはや当てもんです。
迷うより行動あるのみです。
直感を信じて104電話案内に、ラジオ大阪の電話番号を聞いて電話しました。(休みの日は人も少なく、なかなか電話を取って貰えない)幸い制作の人が出てくれました。
「南沙織、泉北ニュ-タウンで有る様な事を云ってましたよ。場所は知りませんけど」
当たりです。
1回目の幸運。又、104で泉北ニュ-タウンのショッピングセンタ-を教えてもらい
「誠に申し訳ない、その辺で南沙織さん出ていませんでしょうか?」
「なんや人だかりがしてますよ!」
「重ねて申し訳有りませんが、緊急にマネ-ジャ-に連絡を取りたいのでお願いします。連れて来てもらえませんか!当方○○といいます。」
厚かましいお願いでしたが伝わるものがあったんでしょう。
なんと、お店の人が呼んで来てくれました。
2回目の幸運。
事情を説明して、楽器等何が足らないかを聞き取りました。
その現場のバンドのスケジュ-ルは?(以前使った事のあるバンドでしたので、草津に移動は可能か?)マネ-ジャ-から、バンドは次、予定ありでダメとの事。穴を空ける訳にはいきません。
新幹線のメンバ-、手持ちの楽器は何?南沙織さんの衣装は今、着てるもので良い。バンドはラジオだからジ-パンでも良い。ピアノはあるし、ドラムやギタ-・ベースはバンバン(その日の前座はバンバン。2004年いちご白書をもう一度がヒットする前。)の物を借りるとして、無いものは?
譜面台とテナ-サックス!これがあれば、調達出きれば公開録音が成立します。
そうだ、滋賀県警音楽隊。
休日で隊長に、連絡出来ません。
守山の楽器店のウインドウにサックスが展示してあった。
得意の104で調べて楽器店に電話するも、故障しているとの事。
大津の楽器店は?無い!
この頃には他のスタッフも異変に気が付きました。
最終的には、京都のA楽器店に電話して調達すれば良いと考えていました。(実の所、交渉していませんから不確定。漠然とそう考えていました。)予算オ-バ-になりますが仕方ない。逆算するとタイムリミットは午後4時。
高校のブラスバンドは?休日でダメ。どうにもならない。
いよいよ京都に頼んで持って来て貰おうと、思った時・・・草津市民会館の方が朗報を!勤労感謝の日でさっきまで松下電器の企業バンドが出ていたので、聞いてみたら貸してくれるそうです。(電話しているのを聞いてはった。)
3回目の幸運。
「ア-助かった!これで出きる!」。
譜面台とテナ-サックスをお借りしました。午後4時過ぎバンドのメンバ-やマネ-ジャ-に出演者が楽屋入り。早速、リハ-サル。(今、思えば人の楽器って扱いにくいはずですが、そんな事考えもしませんでした。)
当時、南沙織さんはカメラマン篠山紀信さんと婚約。
ラストコンサ-トで話題性もあり、満員でした。
勿論、バンドのメンバ-の衣装はバラバラ。でも公開録音は無事終了しました。諦めないで、まっすぐ進んだのが良かった。
幸運の連続!
午後2時からの嘘の様な本当の話。
後日、助けて頂いた草津市民会館の人・松下電器の方に改めてお礼とご挨拶に伺いました。
KBSの記念品とお菓子。謝礼は覚えていません。
結果的には、一番安くつきました。後で気が付きました。
機材搬入日5万円払ってたんやと。
でも悪気があったわけでは無いし、考えてみたら功労者は第一報を伝えてきた機材搬入車の若いドライバ-だと思いなおしました。
嘘のような本当の話。電話の前に座り続けて2時間、孤独な戦いでした!
公開録音も無事終了。お疲れ様・・・
又、来週(つづく隔週予定)
*著者紹介
KBS京都「早川一光のばんざい人間」を立ち上げた初代ディレクター
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