「ST、在宅やってるってよ」その10
最近の研究*で「失語症の言語治療の新しい潮流」について書かれているものがありました。1、非侵襲性脳刺激法 2、集中的治療 3、失語症CI療法 と並んで
「社会的アプローチ」の記載がありました。
「機能回復による問題解決の限界を乗り越え、失語症者が直面している問題を生活状況や社会環境の中でとらえて解決を目指すアプロ―チ~」とあります。
当事者・家族の個性の尊重、本人に取って意味のある活動・参加にフォーカスすること、
お互いに信頼し合えるパートナーシップを築くこと、意思・目標設定を一緒に作ること。
自律性を高めること等等、、、、
私自身、在宅で少しずつそういった関わり方が身に付いていったように感じます。
きっかけは
あるご利用者さんに訪問当初はいわゆる「言語リハビリ」を行っていました(この時発症後10年が経っていて、STは私で3人目でしたYESNOの表現練習ばかりで他のSTを辞めていったと後で聞きました)
が、あまりいい感触は無く、どことなく嫌な雰囲気が漂っていました。。
そんなある日
実は独居車椅子、重度運動性失語ながら、お一人で寿司屋に行ったり、電車に乗って飲みに行かれていることを知り、そこから「良いお店を探すこと」だったり、「同級生と会う」「仲間を増やす」「移動先への地下鉄の段差を一人で乗り降り出来る車椅子が廃盤にならないように支援者たちに伝えたい」などの訴えや目標、それを達成する為のアプローチをあの手この手で行う様になり、地域の支援者達にこの方の日々の生活を知ってもらいたいという事で講座を開くことになりました。
それを口実に普段の居酒屋への外出に同行させてもらいました。(講座用に短編ムービー作成*)
どことなく、それまでは支援者と当事者という壁があったように感じますが、
この居酒屋での一件以来、「心のバリア」がお互いに無くなったように思います。
今では当事者主体の失語症友の会「伏見茶話会」に自身の知り合いを連れてくる、と提案してこられたり、自分から「東京オリンピックの聖火ランナーをしたい」「DAZNに入会したいがどうしたら良いか」などと相談してこられたりする関係性となりました。
また、先の研究には神経学的メカニズムにおいて、言葉が関連する左半球が賦活化(活発な動き)を見せ始めたのは発症から321日経った頃だったとの事です。
その他にも発症後30か月目から言葉訓練を始めて言語機能が改善したことや海外の研究者も6年間、25年間、5~12年間の経過において言語・コミュニケーションの回復を認めているとしています。
現在、入院は最大で180日なので、在宅や施設など地域に戻ってからの事になります。
この時期に「話したい」「話そう」をトライしたい環境、相手が整っていることが、321日目以降の賦活化のカギになるかもしれません。
私が担当させて頂いたこの方も、
お互いに「話したい」、「今度はどうしようか」等と伝えたいことが増えることで
言語機能自体もコンディショニングの維持だけでなく、開始当初は少しの単語とYESNOのみだったのが、短文表出が見られる場面が増えたり、代償手段の獲得も含めてコミュニケーション自体が底上げされるようになりました。
*言語聴覚研究 2019Vol.16 No.2「失語症の言語治療の新しい潮流:理論と戦略」
藤田郁代
*いじりさんのとある一日
https://www.youtube.com/watch?v=RGJEQLe1a80
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